
収穫した野菜 ※写真はイメージです
「旬のものを食べましょう」とはよく言われます。けれど旬は、ひと月まるごと同じ状態ではありません。日本料理では昔から旬を三つに分けて呼び分けてきました。走り、盛り、名残。同じ野菜でも、時期によって味も値段も使い方も変わります。
旬は、三つに分かれている
- 走り(はしり)
- その年に出はじめたもの。数が少なく、値段は高い。味はまだ軽く、香りが立ちます。みずみずしさが身上で、生や軽い加熱で食べるのに向きます。
- 盛り(さかり)
- 最盛期。量が出て、値段が下がり、味がいちばん濃くなります。栄養価も高くなる時期。煮ても焼いても失敗しません。
- 名残(なごり)
- 終わりかけ。身が締まり、味が凝縮します。皮が厚くなったり、種が目立ったりしますが、煮込みや漬物には最も向く時期でもあります。
走りは香り、盛りは味、名残は凝縮。同じ野菜でも別の食べものです。
値段が高い時期と、美味しい時期は違う
走りは値段が高くなります。数が少ないうえに、初物を求める需要があるからです。「初物を食べると寿命が延びる」という言い伝えもあり、江戸では初鰹に大金を払う文化がありました。
ただし味という一点で見れば、いちばんいいのは盛りです。糖度も香りも栄養価も、最盛期に上がる。そして量が出ているので値段は下がる。味と値段の両方で得をするのは、走りではなく盛りの時期です。
そして名残は、扱い方さえ変えれば化けます。夏の終わりのきゅうりは皮が硬くなりますが、だからこそ漬物にすると歯ごたえが残る。秋のなすは身が締まって、煮崩れしにくい。「もう終わり」ではなく「そういう食べ方の時期」です。

ハウスがある以上、旬は分かりにくい
いまの売り場では、多くの野菜が一年中あります。きゅうりもトマトもほうれん草も、冬でも棚に並ぶ。だから「いつが旬か」が分からなくなりました。
見分けるための、単純な手がかりがあります。値段です。同じ野菜が急に安くなったら、それが盛りです。露地でたくさん採れているから安い。売り場でいちばん正直な情報は、価格の動きです。
もうひとつは産地です。同じ野菜でも、時期によって産地が北上したり南下したりします。産地表示が変わったら、旬が移っている合図だと思ってください。
旬のものは、なぜ味が濃いのか
その土地の、その季節にいちばん合った条件で育つからです。無理に温度を上げたり下げたりせずに育った野菜は、生育の速度が自然で、成分がしっかり蓄積されます。
そして、収穫から食卓までが短くなりやすい。旬の時期は近場の産地から出るので、長距離を運ばれてくる時期より、収穫後の時間が短い。野菜は収穫した瞬間から鮮度が落ちていきますから、これは大きい。
逆に言えば、旬でない時期のものが劣るわけではありません。ハウス栽培は品質を安定させる技術でもあります。ただ、同じ値段を出すなら旬のほうが得、というだけの話です。
「初物七十五日」という言葉
初物を食べると寿命が七十五日延びる、という言い伝えがあります。江戸の町では初鰹に一両を超える値がついたという記録もあり、幕府が初物の売買を禁じる触れを何度も出したほどでした。
なぜ禁じたかというと、高騰しすぎたからです。走りのものに大金が動く。いまの感覚でいえば、初物に数万円払うようなものだったわけです。
この文化がおもしろいのは、「いちばん美味しいもの」ではなく「いちばん早いもの」に価値を置いた点です。味でいえば盛りに及ばないと分かったうえで、季節が来たことを先に知る、という贅沢にお金を払っていた。
いまも初物は高いままです。ただ、その高さの理由が「美味しさ」ではなく「早さ」だと知っておくと、買うかどうかの判断がしやすくなります。季節の到来を感じたい日は走りを少し。美味しく食べたい日は盛りを、たっぷり。
旬に合わせると、献立が決まる
毎日の献立が決まらないのは、選択肢が多すぎるからです。一年中なんでも手に入ると、かえって決められない。
「いま安いもの」を起点にすると、これが楽になります。安いということは盛りで、盛りということは味がいい。味と値段と献立が、同時に解決します。
そして旬のものは、同じ季節のものと合います。春の野菜同士、秋の野菜同士。「なんとなく合う」組み合わせは、たいてい同じ時期に採れるもの同士です。
売り場で旬を見分ける
01
値段が下がったら、盛り
いちばん確実な指標です。安いから味が落ちるのではなく、たくさん採れているから安い。
02
産地表示の変化を見る
同じ野菜でも、時期によって産地が移ります。産地が変わったら旬も移っています。
03
走りは少量、盛りはまとめて
高い走りを少しだけ楽しむ。安い盛りをまとめて買って、常備菜にする。
04
名残は調理法を変える
皮が硬く、身が締まる時期。漬物や煮込みに回すと、その硬さが持ち味になります。
05
葉物は切り口を見る
切り口が茶色く乾いているものは、収穫から時間が経っています。旬であっても鮮度は別の話です。
まとめ
旬はひと月まるごと同じではなく、走り・盛り・名残の三つに分かれます。走りは香り、盛りは味、名残は凝縮。
味と値段の両方で得なのは、盛りの時期です。売り場で急に安くなったら、それが合図だと思ってください。
そして名残は、終わりではなく別の使い道の始まりです。漬物にする、煮込む。硬くなったことを欠点だと思わなければ、旬は思っているより長く楽しめます。
いま出ている旬のもの
季節ごとに顔ぶれが入れ替わります。
表示価格は税込です。在庫状況により品切れの場合がございます。
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