
牛乳 ※写真はイメージです
「牛乳が苦手」という人の多くは、牛乳そのものが苦手なのではありません。加熱してできた匂いが苦手なのです。低温殺菌牛乳を飲んで「これなら飲める」と言う人が一定数いるのは、殺菌温度が違えば、出てくる匂いの成分そのものが違うからです。味の好みの話ではなく、化学の話になります。
「牛乳くささ」の正体
あの独特の匂いは、加熱によって生まれます。牛乳のたんぱく質のうち、ホエイたんぱく(乳清たんぱく)は熱に弱い。高い温度をかけると立体構造がほどけ、内側に隠れていた硫黄の部分が外に出ます。
これが揮発して、加熱臭になります。ゆで卵の匂いと同じ種類のものです。絞ったばかりの牛乳には、この匂いはありません。
牛乳くささは牛乳の匂いではなく、加熱してできた匂いです。
日本で流通している牛乳の多くは、120〜130度で2〜3秒という殺菌をしています。効率がよく、日持ちもする。その代わり、ホエイたんぱくはほぼ変性します。
低温殺菌は63〜65度で30分。この温度帯なら、ホエイたんぱくの大部分は構造を保ったままです。だから加熱臭が出にくい。
殺菌方法そのものの違いと、ノンホモとの関係については、パスチャライズ牛乳とノンホモ牛乳の違いで整理しています。
料理に使うと、違いがはっきり出る
たんぱく質が変性しているかどうかは、飲むときより、加熱したときに分かります。
- 温めると膜が張る
- ラムスデン現象です。表面の水分が蒸発し、残ったたんぱく質と脂肪が固まってできます。低温殺菌牛乳のほうが膜は厚く出ます。まだ固まっていないたんぱく質が残っているからです。
- コーヒーに入れたときの分離
- 低温殺菌でノンホモのものは、脂肪球が大きいまま残っているので、酸の強いコーヒーだと分離して見えることがあります。品質の問題ではありません。
- ヨーグルトが作りやすい
- 菌が働くのはどちらでも同じですが、低温殺菌のほうが固まりが柔らかく、ホエイが出やすい。しっかり固めたいなら、高温殺菌のほうが向きます。
- カッテージチーズができる
- レモン汁や酢を加えると、カゼインが固まって分かれます。これはどちらでもできますが、低温殺菌のほうが収量も風味も出ます。

賞味期限が短いのは、手抜きではない
低温殺菌牛乳の賞味期限は、だいたい5〜7日です。高温殺菌なら2週間前後、超高温で無菌充填したものなら常温で数か月もちます。
この差は、殺し切る菌の範囲の違いです。63度30分という条件は、病原菌を確実に殺す一方で、熱に強い菌の一部は残します。残った菌が冷蔵庫の中でゆっくり増えるので、期限が短くなる。
つまり、短い期限は「生きた菌がいる」という表示でもあります。牛乳を買うときに期限の長さで選ぶ習慣があるなら、ここは逆に読んだほうがいい。
扱いは冷蔵庫のドアポケットではなく、奥に置いてください。ドアは開閉のたびに温度が上がります。期限の短いものほど、置き場所が効きます。
「牛乳」と名乗れるものは、思ったより少ない
パックの隅に「種類別」という欄があります。ここが実は一番はっきりした表示です。牛乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳、加工乳、乳飲料。六つに分かれています。
- 種類別 牛乳
- 生乳100%で、成分を足しても引いてもいないもの。水も脱脂粉乳も加えられません。低温殺菌牛乳は必ずここに入ります。
- 成分調整牛乳・低脂肪牛乳
- 生乳100%ですが、脂肪や水分を抜いています。足してはいませんが、引いてはいる。
- 加工乳
- 脱脂粉乳やバターを加えて、濃さを調整したもの。「特濃」と書かれたものの多くはここです。
- 乳飲料
- コーヒーや果汁、カルシウムや鉄などを加えたもの。ここまで来ると牛乳とは別の飲み物です。
値段で迷ったとき、この欄を見れば何が違うのかはすぐ分かります。表の文字は各社が考えた言葉ですが、種類別だけは決まった言葉しか書けません。
脂肪の粒をつぶすかどうか
牛乳の脂肪は、粒になって水の中に浮いています。そのまま置くと軽い脂肪が上に集まり、クリームの層ができる。これを防ぐために、圧力をかけて粒を細かく砕くのがホモジナイズです。
ノンホモはこれをしていません。だから瓶の上にクリームが浮きます。振れば戻ります。粒が大きいままなので、舌の上での溶け方が違い、濃く感じます。
逆にいえば、ホモジナイズされた牛乳が均一なのは、加工された結果です。どちらが自然かという話より、どちらの口当たりが好きかで選んで構いません。
低温殺菌牛乳を試すときに
01
まず冷たいまま飲む
加熱臭がないことが分かりやすいのは、温めない状態です。コーヒーに入れる前に、一口そのまま飲んでみてください。
02
小さい容量から始める
期限が短いので、1Lを持て余すことがあります。200mLや500mLで口に合うか見てからのほうが無駄がありません。
03
温めるときは沸騰させない
沸騰させれば、低温殺菌の意味はほぼなくなります。鍋肌に小さな泡が出るくらいで止めてください。
04
牛乳が苦手な人にこそ
加熱臭が理由で飲めなかった場合、同じ人が低温殺菌なら飲めることがあります。理由がはっきりしている現象です。
05
期限は短いものとして買う
買い置きには向きません。週に使う分だけ買うほうが、結果的に無駄が出ません。
牛乳を残さないための使い道
期限が近づいたら、火を通すより先に、冷たいまま使える用途を考えてください。そのほうが風味が残ります。
- そのまま飲みきる
- いちばん違いが分かる使い方です。
- ヨーグルト・カッテージチーズ
- 酸で固めるだけなので、家庭でもできます。ホエイは捨てずにスープやパン生地に。
- グラタン・シチューのホワイトソース
- 加熱するので香りの差は小さくなります。残った分の始末としては合理的です。
- 凍らせる
- 風味は落ちますが、料理用としては使えます。解凍すると分離しますが、加熱すれば戻ります。
この記事で触れた牛乳
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