黒毛和牛のブランド名は、日本に200以上あるといわれています。松阪牛、神戸牛、近江牛——名前は知っていても、その基準がどう違うのかは案外知られていません。地球人倶楽部で扱う伊万里牛(佐賀県伊万里市産の黒毛和牛)も、そのひとつです。実はこの牛、佐賀を代表するもうひとつのブランド牛「佐賀牛」と、驚くほど深い関係があります。
名前が分かれたのは、農協の合併のタイミング
佐賀県には昔から、黒毛和牛の産地がいくつも点在していました。地域ごとのJA(農業協同組合)が、それぞれの地区でブランド牛を育ててきた歴史があります。2007年4月、県内の多くのJAが合併して「JAさが」というひとつの大きな組織になり、これを機に県内のブランド牛の名前も「佐賀牛」へと一本化されていきました。
ところが、伊万里市を管轄していたJA伊万里だけは、この合併に加わりませんでした。その結果、JA伊万里の管轄地域で育てられた黒毛和牛は、佐賀牛とは別の流通ルートに残り、今も「伊万里牛」という名前で呼ばれ続けています。つまり伊万里牛と佐賀牛は、血統が違うわけでも、育て方の方針が違うわけでもありません。牛を管理する農協の合流先が違ったという、いわば組織の事情で名前が分かれた、兄弟のような牛肉なのです。
肉質等級4等級以上、霜降りNo.7以上——共通のものさし
名前は違っても、求められる品質のものさしは共通しています。黒毛和牛は出荷時、日本食肉格付協会という第三者機関によって枝肉の状態から等級を判定されます。見られるのは大きく二つ。ひとつは肉のとれ高を示す「歩留等級」(A・B・Cの3段階)、もうひとつは脂肪交雑・肉の色沢・締まり・脂肪の質を総合して判定する「肉質等級」(1〜5等級の5段階)です。
佐賀牛・伊万里牛を名乗るためには、この肉質等級が4等級以上であることに加えて、脂肪交雑の細かさを示す「BMS(ビーフ・マーブリング・スタンダード)」という指数がNo.7以上であることが求められます。2004年には、この基準がそれまでのNo.8からNo.7へと一段階見直されました。基準を緩めたというより、より多くの生産者の牛を正しく評価できるようにするための改定だったといわれています。全国の和牛ブランドの中でも、この等級基準は仙台牛に次いで厳しい部類に入るとされています。
この基準をクリアした肉には、きめ細かな霜降りと、赤身の締まりが両立して現れます。脂肪の質が良いと、加熱したときに脂がだれずに、旨みだけがじんわりと広がっていくのが特徴です。

【伊萬里牛】 極上ももステーキ肉
肉質等級4等級以上・BMS No.7以上の基準をクリアした、もも肉のステーキ用カット
そもそも「黒毛和牛」とは、どんな牛か
伊万里牛も佐賀牛も、品種としては「黒毛和種」に分類されます。和牛には黒毛和種のほかに褐毛和種・日本短角種・無角和種の4品種がありますが、全国で飼育される和牛の9割以上を黒毛和種が占めているといわれています。明治から大正にかけて、日本各地の在来牛に外国種を掛け合わせる改良が進められ、その中から脂肪交雑(霜降り)が入りやすい体質の系統が選び抜かれて、現在の黒毛和種の基礎ができあがりました。
つまり、松阪牛も神戸牛も近江牛も、そして伊万里牛も、根っこの品種は同じ黒毛和種です。名前の違いは、育てられた土地・農協・肥育農家の違いによるもので、味の優劣を決める絶対的な序列があるわけではありません。それぞれの土地の水・飼料・気候に合わせて育てられた、いわば「地域ごとの仕立て」の違いだと考えると分かりやすいかもしれません。
黒毛和種の肉が「口の中でほどける」と表現されるのには理由があります。牛の脂肪の融点は牛種や個体によって差がありますが、一般に黒毛和種の脂は融点が低めで、常温に近い温度からやわらかくなり始めるといわれています。細かく網目状に入り込んだ脂肪(霜降り)が体温に近い温度でゆるみ始めるため、噛んだときに脂と赤身が一体になって感じられるのです。
港町・伊万里という土地について
伊万里牛の名前の由来である伊万里市は、佐賀県の西北部、玄界灘に面した港町です。江戸時代には、有田周辺で焼かれた磁器「伊万里焼」の積み出し港として栄えました。積出港の名がそのまま器の名前として全国に広まったという、少し変わった歴史を持つ土地です。今も伊万里梨や伊万里牛など、この地名を冠した農産物がいくつも育てられています。
山あいの盆地と海の両方を持つ地形は、伊万里市に限らず、九州の和牛産地に共通する特徴でもあります。水田裏作の稲わらや、地元でとれる飼料作物を組み合わせて牛を育てる混合農業の形が、こうした地域では昔から根づいてきました。
面白いのは、伊万里焼と伊万里牛が、遠いようでいて似た構造を持っていることです。伊万里焼はもともと有田周辺の窯元で焼かれた器を、伊万里の港から全国へ積み出したことでその名がつきました。生産地と積出地・流通の名前が一致しないという点は、JA伊万里の管轄地域で育てられた牛が「伊万里牛」と呼ばれる構造とどこか重なります。土地の名前は、必ずしも生産の現場だけを指すのではなく、そこに関わった人や組織の歴史ごと引き受けているのかもしれません。
伊万里が生んだ、もうひとつの名物——ハンバーグ
伊万里牛には、ステーキや薄切りとは別の顔もあります。九州各地のご当地グルメを集めたイベントで、伊万里牛のハンバーグが「食べたい部門」で3年連続1位に選ばれたことがあります。使われているのは、肉質等級4等級以上の伊万里牛と、地元・伊万里産のたまねぎだけ。卵や牛乳といったつなぎを加えず、肉そのものの食感を活かして作られているのが特徴です。
当店で扱う「特製・伊萬里牛のハンバーグ(和風ソース付)」も、こうした地域の食文化の延長線上にある一品です。あらかじめ和風ソースが添えられているので、解凍して焼くだけで食卓の一皿になります。
部位ごとの、食べ方の見つけ方
伊万里牛は、部位ごとに向いている料理も、扱い方のコツも変わります。極上ももステーキ肉は、焼く30分〜1時間ほど前に冷蔵庫から出し、常温に戻してから焼き始めるのがコツです。冷たいまま強火にかけると外側だけが先に縮み、中まで均一に火が入りません。フライパンをよく熱してから両面に焼き色をつけ、あとはアルミホイルで包んで余熱で数分休ませると、切ったときに肉汁が逃げにくくなります。
もも薄切りは、しゃぶしゃぶやすき焼きなど鍋もの向きの部位です。薄く切ってあるぶん火が通りやすいので、だし汁にくぐらせる時間は短めを意識すると、赤身の柔らかさが残ります。脂の質が良いと、鍋の出汁そのものにも旨みが溶け出していきます。
切り落としは、価格を抑えつつ普段づかいしやすい部位です。牛丼や肉じゃが、野菜炒めなど、火を通す時間が長めの料理に向いています。ステーキ肉ほど部位の見栄えを気にしなくていいぶん、日々の献立に取り入れやすいのが利点です。
特製・伊萬里牛のハンバーグは、すでに成形・下味づけまで済んでいるので、凍ったまま、あるいは冷蔵庫で解凍してからフライパンで焼くだけです。添えられた和風ソースを仕上げに絡めれば、平日の夕食にもう一品、手をかけたような料理が加わります。
特別な日にも、いつもの夕食にも。同じ産地の牛肉のなかから、その日の気分と手間のかけどころに合わせて選び分けてみてください。
監修者:地球人倶楽部 編集部
伊万里牛
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【伊萬里牛】 極上ももステーキ肉
【伊萬里牛】 もも薄切り
【伊萬里牛】 切り落とし
特製・伊萬里牛のハンバーグ《和風ソース付》
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