
ぬか床 ※写真はイメージです
ぬか床は、米ぬかと塩と水を混ぜた時点では、まだぬか床ではありません。あるのは材料だけで、漬物をつくる菌はまだいない。最初の二、三週間、野菜を捨てながら漬けるのは、味を出すためではなく、菌の顔ぶれを立ち上げるための時間です。「熟成ぬか床」が売られているのは、この期間を飛ばせるからです。
捨て漬けは、何をしているのか
ぬか床で働くのは、主に乳酸菌と酵母です。どちらも空気から自然に入ってきます。ただし、入ってすぐ主役になるわけではありません。順番があります。
最初に増えるのは、塩に強い雑多な菌です。この段階のぬか床はまだアルカリ寄りで、匂いも青くさい。乳酸菌はここでは増えにくい。
捨て漬けで野菜を入れると、野菜の表面についていた乳酸菌が持ち込まれ、同時に野菜から出た糖が餌になります。乳酸菌が乳酸を出し、床のpHが下がる。酸性になると、他の菌が住みにくくなる。
捨て漬けは味づくりではなく、菌の入れ替え作業です。
pHが4台まで下がったところで、ようやくぬか床になります。ここまでが二、三週間。毎日かき混ぜ、野菜を替え、まだ食べられない漬物を捨て続ける期間です。ぬか床が続かない理由の多くは、この最初にあります。
「熟成ぬか床」が売られている意味
できあがったぬか床は、菌の構成が安定しています。つまり買うのはぬかではなく、そこに住んでいる菌のほうです。袋を開けてすぐ野菜を漬けられるのは、pHがすでに下がっているからです。
これは種菌を足すのとは違います。種菌は一種類を加えるものですが、熟成ぬか床は複数の菌がすでに釣り合った状態になっている。この釣り合いは、あとから足して作れるものではありません。
つくり手については、「マルアイ食品」とは?麹屋甚平の熟成ぬか床に書いています。

匂いで、どの菌が優勢か分かる
ぬか床の異変は、ほとんどが菌のバランスの話です。匂いを読めば、何が起きているかの見当がつきます。
- シンナーのような匂い
- 酵母が増えすぎています。かき混ぜが足りず、糖が余っているとき。塩を少し足し、数日は毎日底から混ぜてください。
- 表面に白い膜
- 産膜酵母です。空気が好きな菌で、表面に集まります。薄いうちは混ぜ込んで構いません。厚く張ったら、その部分だけ取り除いてください。
- すっぱすぎる
- 乳酸菌が優勢すぎます。混ぜる回数を増やして空気を入れるか、ぬかと塩を足して薄めてください。
- 生ぐさい、腐ったような匂い
- 酪酸菌など、空気を嫌う菌が底で増えています。底からしっかり混ぜていないときに起こります。毎日、底の層を上に返してください。
- カビ(青・黒・緑)
- これは菌のバランスではなく汚染です。その部分を深く取り除き、それでも戻らなければ作り直してください。
ぬかを漬物に使うのは、もったいないからではない
米ぬかは、玄米を精米したときに出る外側の層です。重さでいえば玄米の一割ほど。ここに、ビタミン・ミネラル・脂質・そして糖が集まっています。
糖があることが、発酵にとっては決定的です。乳酸菌も酵母も、糖がなければ増えません。ぬかが発酵の床になるのは、菌の餌がそろっているからで、余ったものを利用した、という順番ではありません。
そしてぬかは酸化が早い。脂質が多いので、精米から時間が経つと匂いが変わります。ぬか床が古いぬかで立ち上がりにくいのはこのためで、新しいぬかを足すと元気が戻るのも、同じ理屈です。
漬けた野菜に栄養が移るという言い方をされることもあります。実際に増えるのは、ぬか由来のビタミンB1などです。ただし、それを目的にするほどの量ではありません。味と保存のための方法として見たほうが、無理がありません。
かき混ぜるのは、菌を混ぜるため
毎日かき混ぜるのは、衛生のためではありません。空気を好む菌と嫌う菌を、定期的に入れ替えているのです。
乳酸菌は空気が少ないところで働きます。産膜酵母は空気のあるところに集まる。混ぜないと、上と下で別々の菌が増えて、床が層に分かれます。
だから、底から返すことが大事です。表面をなでるように混ぜても、下の層は動きません。手を底まで入れて、ひっくり返す。これで足ります。
冷蔵庫に入れたぬか床は、止まっている
冷蔵庫で保管すると、菌の活動はほぼ止まります。毎日混ぜなくてもよくなるのは、このためです。手軽にはなりますが、その間、発酵も進んでいません。
常温なら半日で漬かるものが、冷蔵だと一日から二日かかる。味の出方も穏やかになります。「浅い」と感じるのは、下手だからではなく、温度のせいです。
使い分けとしては、日常は冷蔵、味を育てたいときだけ常温に一日戻す、という手があります。出しっぱなしにする必要はありません。旅行などで一週間以上空けるなら、表面に塩を厚くふって冷蔵庫へ。戻ったら上の層を捨てます。
ぬか床を続けるために
01
熟成したものから始める
ゼロから立ち上げると、最初の三週間は食べられないものを捨て続けることになります。
02
底から混ぜる
表面だけ混ぜても、下の層は変わりません。手を底まで入れて返してください。
03
水が出たら吸わせる
野菜から水が出て緩みます。キッチンペーパーで吸うか、ぬかと塩を足して固さを戻します。
04
塩を惜しまない
酸っぱくなりすぎるとき、原因は塩不足であることが多い。野菜を入れるたびに、表面に軽くふるくらいで構いません。
05
冷蔵と常温を使い分ける
冷蔵は止まっている状態です。味が薄いと感じたら、一日だけ常温に出してみてください。
何を漬けるか
- きゅうり・かぶ・大根
- 水分が多く、漬かりが早い。最初はここから。
- にんじん・ごぼう
- 固いので、半日から一日かかります。縦に割ると早く漬かります。
- ゆで卵・チーズ
- 変わり種ですが、よく合います。水が出ないので床が緩みません。
- アボカド
- 半日ほどで。ねっとりした食感が残ります。
ぬか床が続かない理由を、道具と生活のほうから見た記事も書いています。ぬか床が、続かない。
この記事で触れたぬか床
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